今回の小説はモバイルサイト10周年記念ということで、「微炭酸ー高校生編ー」を掲載しています。読んでいただける人がいるならば連載していきたいと思います。

 

森田りょう

微炭酸ー高校生編ー

 

 ぱちぱち、とはじけ飛んだ。口の中で、ぱちぱち音が鳴って消えていく。痺れる舌先が、ほんの少し痛い。

「なに飲んでんの? 木原」

「ん? なんか知んないけど、新しく出た炭酸の……何味だろ? 小野田、飲んでみる?」

 手渡した炭酸ジュースを小野田は手に取った。あたしが口にしたペットボトルなんだから、間接キスになるわけで、小野田はそんなことは全く気にもせずにごくりと喉を鳴らして飲み干した。

 学ランのボタンは全てはだけたままで、体育の後急いで走ってここへやって来たんだと判った。唇から零れた雫を手の甲で拭う。汗の匂いと微炭酸の匂いが微かに混ざっていた。

「まっず! なに、この味」

「だから、何味かわかんない……」

 思わず、視線が小野田の唇に向けられていた。あたしは慌てて、視線を逸らす。中庭のベンチに二人だけの時間がそっと流れていく。心音が重なったらお終いだ。そうなると余計に、煩わしい。あたしは敢えて、小野田への気持ちをごまかしてこの何年間かを過ごしてきたんだから。

「なあ、木原。俺さあ、なんつーか……彼女、できたっぽい」

 一瞬、全てが崩れ去った気がした。ずしんと胸に響いて、あたしは何も言葉にできない。小野田との関係を崩したくなかったから、そんな気持ちを押し殺していたのに。先手必勝とはこのことを言うのだろうか。ああ、馬鹿だ。あたしはなんて大馬鹿なんだろう。どこかで、どこか胸の奥底で、ほんの少しだけど、小野田はあたしに気があるんじゃないかと思っていた。安心していた。ずっと小野田はあたしの傍にいるんだって、そう思っていたのに……。

「で……できたっぽいって何よ? まだ付き合ってないの?」

「う~ん、この間、カラオケで合コンしたんだよね。そんときにさ、別室があいてて、途中までヤッちゃって……あ、最後まではしてないんだけど」

 空を見上げて小野田は呟いた。まるで、その日のことを思い返すように。

 切なかった。虚しくなった。小野田のはにかむような懐かしむような、目を細めて空を見上げた姿に苦しくなった。ぱっと現れた女に小野田を奪い取られたくない。ずっと、見てきたんだから。小野田だけを。もう、何年もずっと……。

 あたしの手に力が籠る。空のペットボトルを振り上げて、小野田に投げつけた。

「いって! 何すんだよっ? 木原っ」

「ばっかじゃねぇのっ? 女なら誰でもいいんだ。小野田って、そんな男だったのかよっ?」

「お前さ、さっきから何怒ってんの?」

「別に。怒ってなんかない」

「怒ってんじゃん」と眉間に皺を寄せて小野田は呟いた。腕に滲む汗が、滴り落ちる。あたしは、その汗ばんだ腕に高揚した。気持ちが昂って、夏の暑さで頭がおかしくなったのか、とんでもないことを口走ってしまった。

「小野田って……シたことあんの?」

「は? え?」

「童貞なの?」

「ちょ……お前さ、なんつーか……男に、んな質問聞くなよ」

 小野田は顔を真っ赤にさせて、視線をずらそうとするが、そんな彼の頬にあたしは手を添えて正面に向かせると見つめ返した。呻る。心臓が呻って、破裂しそう。

「小野田……あたしと、する?」

 鼻先がくっつきそうな距離で囁く。金魚が餌をもらうような、口をぱくぱくと開けて声を出せないでいた小野田にあたしはなおも挑発する。

「しようよ、セックス」

 あたしの二回目の言葉に、小野田は理性を失った。

 

 

「……っ木原……」

「んん、小野……田っ……」

 腕を掴まれたあたしは、校舎裏の周りから見えない場所へと引っ張り込まれた。とにかく、互いの唇を貪りあった。ファーストキスではないし、深いキスだってしたことがある。でも、こんなに動物の本能のまま行うキスは初めてだ。

「ね、小野田。外でするの?」

「ん? 嫌? 木原はどこでしたい?」

 胸の谷間に顔を埋めた小野田が、あたしを見上げてそう言った。男って、どこでもできるんだなあと改めて思い知らされる。

「おの……だっ、んん……っァ」

 小野田の唇があたしの肌を何度も這って、指先は下肢を何度もなぞって、あたしの体が快感を覚えていく。一つ一つ刻み込まれる小野田の愛撫の仕方に、あたしは言葉を失った。

 校舎と校舎の間の冷たいコンクリートの上にあたしは組み敷かれた。冷えた石の塊が、火照ったあたしの体を溶かす。

「木原、ほんとにいいの?」

 あたしの足を大きく持ち上げると小野田は浅い息を吐き出しながら尋ねた。

「いいって……言ってるでしょ?」

 穴の位置を確認しながら、小野田は戸惑いながら指を捩じ込んできた。

「……っつ……」

「痛い? 木原……」

 言いながら、小野田はあたしの膣内を指で掻き混ぜた。ぐちゃぐちゃと何度も音を出して、わざと聴こえるように、浅く、時には深く。

「んっ……ァ」

 甘い喘ぎに切り替わると、小野田は慌ててベルトに手をかけ硬くなったペニスを押し付けてきた。

「お……小野田っ……」

 待ってと言っても聞いてくれないだろう。それでも、小野田があたしで興奮してくれているのが嬉しい。焦りが小野田の思考を塞いでいる。理性など元からなかったかのように、本能のまま只、欲するのだ。

「木原っ……力抜いて」

 そう言われても、力なんて抜けない。緊張という緊張が、あたしの体を縛りつけるようだ。みんな、こんなことを乗り越えて生きてるんだと思うと、すごいなあって。女に変わる瞬間はどれだけ素晴らしいものなんだろう。あたしの目頭が熱くなっていく。小野田の体があたしの体に沈んでいく。体が真っ二つに裂けるような痛みに歯を食いしばる。個人差はあるらしいのだが、あたしの場合、小野田のアレがけっこう大きかったせいもあり、かなりの激痛だった。

「……っきはら……」

 途切れ途切れに声を出し、小野田はあたしの名を呼んだ。きっと、小野田も痛いに違いない。あたしの中は、指やタンポンなどの異物を入れたことがなく、初めて体内に入れたのが小野田のペニスだ。そりゃ、狭いに決まっている。そこまで濃いマスターベーションをするほど、性欲はなく、ただ欲求が溜まれば性器を指で擦りながら快感を得るくらい。それくらいしかしたことがないのに、あたしってば小野田に対してすごく大胆に誘って、こんな外で初めてのセックスをしている。なんて、すごい経験なんだろう。

 小野田の顔が、少し歪む。

「すげっ、木原ん中、俺のをぎゅうぎゅう締め付けてくる」

「ごめ……ん、小野田。痛い?」

 このまま、小野田のペニスが千切れてしまうんじゃなかろうか? そんな心配が頭の中を過ぎるが「痛いのはお前のほうだろ?」と優しい言葉をかけてもらってあたしは泣きそうになった。子宮の奥深くが熱くなる。結合部が合わさって、あたしの蜜で小野田の腰回りを濡らす。互いの性器が擦れるほどに密着していた。

「全部……入った」

 そう言って、小野田はあたしの顔に唇を寄せる。胸が高鳴って、あたしはキスを受け入れた。あたしよりも分厚い唇があたしの薄っぺらい唇を飲み込む。小野田が律動を繰り返すたび、あたしの体は上下に揺さぶられ、意識が遠のくほどの痛みが押し寄せた。快感に変わるまでは、あとどれくらい時間が経てばいいのだろうか? あと何度、セックスをすれば気持ちよくなるのだろうか? AVビデオの女優なんてものは、絶対演技だとあたしは確信した。あんなにも気持ち良ければ、もっと小野田に可愛い顔を見せてあげられるのに。

 眉間に皺を寄せたあたしを心配する小野田は、腰の動きを遅め頬に手を添えてきた。

「大丈夫? 木原」

 だけど、小野田に声をかけてもらえるだけで幸せ。小野田に見つめられるだけで幸せ。小野田に触れられるだけで幸せなの。

「小野田、好きに動いていいよ」

 今、その瞳に映るのはあたしだけなんだって思ったら、とにかく心臓を鷲掴みにされた気分になった。小野田はあたしの名前を呟いて一言謝ると本能のまま腰を打ち付けた。

 

 帰り道は泣きそうだった。それと同時になんだか照れた自分もいた。電車に乗っている間、今、あたしはセックスを終えたばかりなんだよ? と叫びそうになった。それから、見る人全て、あんな行為を行ったことがあるんだ……となんか少しやらしい目で見るようになってしまった。あの行為がなければ子どもは産まれないと分かっているのに。でも、家族を築こうと考えている人たちのセックスと自分が今、行ってきた興味本位のセックスは全くの別物だと思ったら、なんだか悲しくなってきた。初めては好きな人としたいと考えてきたんだから、嬉しいはずなのに……小野田の気持ちがあたしに向いてないのが分かっていたから、虚しい。

 男は誰とでもできるんだと思った。あたしは、そうじゃないのに──。

小野田としたいって決めていたのに──小野田はあたしじゃない人を見ている……。

 

 

 晴れた日くらい、外に遊びに行こうよと告げたが、親がいないのは今日、この日だけだと言って断られた。

「小野田っ……ん」

 無理矢理口をこじ開けられ、舌を入れてきた。あたしは押し倒され、ベッドのスプリングが軋むほどに小野田の体が被さってきた。窓から青空が見えた。美しいスカイブルーの空。綺麗すぎて、あたしの心に突き刺さった。

「小野田、小野田ってば!」

「いてっ。なんだよ、木原」

 胸もとでうごめく小野田の頭をあたしは思い切り叩いた。今まで舐められていた乳房の尖端に小野田の唾液が残っている。露になっていた胸を隠して、あたしはゆっくり体を起こした。

「ねえ、遊びに行かないの?」

「だって、暑いじゃん。もう十月後半なのに、夏みたいな気温だし」

 あれから、小野田との関係は続いていた。夏の暑さはとうに越え、秋が深まって冬を迎えようとする季節まで、ずっと……。

不貞腐れたあたしの頬に、小野田はキスを落とす。わざと音を出して、キスを繰り返す。

「も……ちょっと、小野田! くすぐったい」

「俺とすんの、嫌?」

 子犬のような目で見つめてくる。それが小野田の技。その技にあたしはいつも騙されて、話をすり替えられたりしながら体を許してしまう。なし崩しにされて、とろとろにされて、小野田に抱かれることが当たり前の日常。それが、至福のとき──。

 もう何度、体を重ねただろうか。小野田はあたしの快楽のツボを把握していて、あたしも小野田の気持ちいい場所を知っている。互いに初めてだったあたし達は、二人で気持ちいい場所を探した。手さぐりでの毎日は、楽しいものだった。だけど、次第に独占欲が強くなっている自分に気づいた。小野田との関係はあたしから持ちかけたせいもあって、今更、付き合ってだとか好きだとか、本音を言えなくなっていた。『体だけの関係』がただ二人を繋ぎ合わせているだけで、きっと第三者が加われば、あたし達の関係は容易く崩壊していくのだろう。小野田は、来る者を拒まない。だから、あたしは不安だ。好きだと素直に伝えられたらいいのに。だけど、伝えたらどうなるのか、小野田はあたしを突き放すんじゃないかって思うと、臆病になってしまって何も話せない。

「なあ、すんの嫌なの?」

 もう一度、小野田は尋ねた。

「嫌じゃない……けど、たまには出かけようって言ってんの? ねえ、明日とかどう? 日曜日だし新しくできたテーマパークにでも……」

「ああ、明日は……無理」

 言葉を途中で遮られた。あたしは口を噤んで小野田を見つめると、小野田はバツが悪そうにあたしから視線を外した。

「なん……で?」

 家族と出かけるかもしれない。友達と出かけるかもしれない。だけど、ふいにあたしの視線から逃げたことで、女の勘というものが働いたのだろう。あの一瞬で、あたしは確信した。

「もしかして……彼女?」

 声が震えた。小野田に気づかれていないか、ひやりとした。小野田はしばらく口を噤んだ後、ゆっくりと開いた。

「あー……うん。付き合うことになった」

 その言葉を聞いて、大きく目を見開いたことは、小野田はきっと知らない。だって、小野田はあたしを見ない。一度も……こっちを見てくれない。不安が的中した。彼女ができたら、小野田はきっとあたしとの関係も解消するのだろう。そう思っていたが、小野田の口から飛び出てきた言葉は意外なものだった。

「関係は続けたい」

「どういうこと?」

「だから、木原と……その、これからも変わらず……」

「エッチするってこと?」

 頷いた小野田とようやく視線が重なった。苛立ちを通り越して、あたしの体は打ち震えた。信じられないくらい深い暗い場所から沸々と湧き上がる真っ黒な感情に驚いた。

「なによ、それ! 彼女がいるのにあたしとセックスするってこと? 付き合うことになったって……今、小野田はその子の彼氏で……あたしとエッチする関係だってこと?」

「ああ、そうだ」と小野田は唇を尖らせて呟く。読んでいた週刊誌をベッド脇に放り投げて、今度は強くあたしを睨んだ。

「男って……」

 最低だと言おうとしたが、次の言葉は喉の奥が熱くなって出なかった。

「いつの間に……そんな仲になってんの」

「他校の女の子?」と聞くと小野田は「ああ」と相槌を打った。

「以前合コンしていい感じになった子」

「信じられない」

 どうして? 何故? といった言葉しか思いつかない。あたしは小野田が好きで好きでたまらなくて、体で繋ごうとした。その罰なのだろうか?

 別の女の子と付き合っているのにあたしに言わない小野田の体を力ない腕でぽかぽかと殴って、顔を見せないようにした。

「やることしか考えてないんだ」

「……」

「あたしのこと、玩具としてしか見てないんでしょっ?」

 罵声を何度も小野田に浴びせた。最初は耐えていた小野田だったが、ついに我慢の限界がきたのか、あたしの腕を両手で押さえて握りしめた。

「だって、お前俺に何も言わないじゃん!」

 大きな手であたしを揺さぶる。小野田の革新づいた言葉が胸に突き刺さった。がくりと膝から力が抜ける。眉を寄せて叫ぶ小野田は、意外にも悲しそうだった。泣きたいのはこっちだ。そう、あたしは小野田に何も言ってない。何も言わない。言いたくないのだ。

セックスして、小野田を自分の物にしていた。小野田は誰の物でもないのに。好きとさえ言わない卑怯な自分自身が心底嫌いになった。そりゃ、小野田も好きと言われたほうに飛びついて行くだろう。十七歳とは、セックスに興味が最高潮の時期であって、男は特に、気持ちと性的快楽は別物だと考えている人が多いと聞く。

酷い話だ。小野田じゃなくて、あたしが。体で繋ごうとしたんだから。小野田は悪くない。

「ごめん……」

 唇を噛みしめて呟いた。

「木原?」

 小野田があたしの顔を覗きこもうとした。こんな汚い顔、小野田に見られたくなかった。隙を見つけると、全ての力を籠めるほど、小野田を強くベッドの上に突き飛ばした。

「ごめん!」

 小野田の部屋から逃げるように飛び出した。空の青さが鬱陶しいほど眩しく見えた。胸が苦しくて吐き気がした。あたしが間違っていたんだ。焦って体の関係を先に求めてしまった。小野田の気持ちを無視して、体を重ねた報いだ。罰だ。神様は怒っているんだ。

 そう思うしかなかった。高校生のあたしにとってみれば、このことは重大な事件。大人になったらきっと、鼻で笑う昔話になるかもしれないけれど、あたしにとったら「今」が大事なの。小野田に好きって言ってもらいたい。ただそれだけなの。小野田が全てなの。体の関係だけでいいって思うくらい、ずっと、ずっと……好きだった……。

 手で目許を覆う。零れる涙が指の隙間から溢れ出し、アスファルトへと消えていく。

その日から、小野田に連絡はしなかった。小野田もまた、あたしに連絡をよこさなかった。

 

 

 秋が通り過ぎて、本格的な冬が始まる頃。大学受験を控えるクラスメイトはピリピリとしていた。教室にいることも億劫になる。あたしはため息を吐き出しながら、屋上に続く階段に腰を下ろした。そこまでレベルの高い大学を狙っていないあたしは、どことなくやる気がでなかった。落ちたらバイトでもしようかという程度に考えていた。

 小野田とはクラスも違う為、顔を合わせる日が少なくなった。それに、特進クラスの小野田はレベルの高い国公立の大学を受験すると聞いていた。頭の中身から、あたし達全然違うんだ。と、皮肉めいたことを考えてみる。そうすることで、小野田とあたしは釣り合わないんだと思い込むのだ。

「あっちゃ、先客いた」

 考え込んでいると、階段を軽快に上がってきたのは同じクラスの平だった。

「たい……ら?」

「木原か。一人で何してんの?」

 小野田とは正反対の口の軽くて明るい奴。短髪を灰色に染めるような、いわゆる落ちこぼれ組の平は、見た目はこんなのでもわりと話しやすい。あたしは自然と壁際に体を寄せ、平が座れる分を空けた。

「サンキュー」と軽やかな返事が返ってきた。

 購買で買った微炭酸入りの不味いジュースを口にしながら「昼寝?」とあたしも軽く尋ねた。

 屋上に通じる階段は、死角になっていて、けっこうみんなも休みにくる。先客がいたら教室に戻るというのが暗黙のルールで、成り立っている。平もあたしが先にいたから教室に戻ろうとしたが、踵を返しあたしが空けたスペースにちょこんと座った。

 他愛もない話をするのは久しぶりだった。明るく話を盛り上げる平に、あたしは心を開いていく。不安な思いを全て忘れさせてくれるみたい。

「平の話って、面白い」

「んな褒められても、何もやんねぇよ」

「別に、欲しくないよーだ」

 そう言って、階段の一番上に座っていたあたしはそのまま体を後ろに倒した。やけに遠い天井を見つめる。そんなあたしの姿を平が見つめていることすら気づかず。

「木原さー、俺のこと誘ってる?」

「え?」

 ドキッとして体を起こそうとした瞬間、平の顔が近づいてきた。しまったと思っても、もう遅い。うまい具合に唇をこじ開けられて、ぬるりとした舌先で歯の裏側を舐められた。

「んっ……んー」

 起き上がりたいのに、平の体が被さって思うように身動きがとれない。いやだ、いやだと心の中で叫んでも、無駄だった。平の下肢はぱんぱんに膨れていた。ぎょっとした。あたしの顔から血の気が引く。叫んで助けを呼んだとしても、軽く停学程度か。それよりも学校中に平とできているだのと噂になることを恐れた。知られたくないと心底感じた。それならば、平の愛撫を受け入れるべきなのか。あたしは、悩んだ。

 唇を外しても叫ばないあたしに安心したのか、平は手を伸ばしあたしの胸を荒々しく揉んだ。服の上から下着をずらされ、尖端にある小粒をかりかりと指先で擦られる。びくりと体が反応したが、小野田と違うということに抵抗を感じた。愛撫の仕方が全然違う。小野田も荒々しく胸を揉むことがあったが、最初に胸全体を揉みしだく。あたしがそれに感じていると、今度は直に触れてくる。それから……それから……。

 小野田のやり方と平のやり方を比較していくうちに気持ちが萎えた。さっきまでは、もうどうでもいい。平とセックスしてもいい。と考えていたのに、小野田の顔が脳裏にちらついて、あたしの快感は消えうせた。平の体を押しのけようと手に力を籠めたが、今度は手首と腰を強く掴まれ、固定された。

「やっ……だ」

「木原、いいじゃん。へるもんじゃないし。お前だって、さっきは抵抗しなかっただろ?」

「でも、……や……っ」

「俺はずっと木原を見てた。俺のこと怖がらずに、楽しく笑って話を聞いてくれる木原を……」

 顔が火照った。あたしが小野田に言ってほしかった言葉を平は難なくあたしにぶつけてきたからだ。

「たいら……あたし……」

 驚いて声も出ないあたしの顔を見上げると、平は眉をひそめて尋ねる。

「好きな奴でもいんの?」

 唇を噤んだ。時間だけが過ぎて、一向に口を開かないあたしに平はもう一度あたしを抱き寄せた。

 平はあたしだ。あのときのあたし。そう思うと、抵抗できなかった。性に対して興味がある年頃。少し優しくしてもらえれば体を委ねてしまう。足を広げてしまう。

「た……いっ……ん」

 男の名前を呼ぼうとしたが、口を自らの唇で塞がれる。昼休み終了のチャイムが聴こえ、互いの体が跳ねた。一瞬、止まった平の体にあたしは蹴りを入れた。

「うっ……」と呻き声を出して、平はその場に崩れた。体を曲げてしな垂れた頭を見ると、なんだか悪い気がした。

「ごめ……平。ごめん……」

 何度も謝るあたしに、平は「いいよ。俺も悪かった」と言ってくれた。もとはと言えば、あたしが無防備に男の前でリラックスしていたのが悪いのだ。十七才、十八才ともなれば法律上は未成年として扱われるが、立派な大人だと思う。大人の男性より、ある意味獣だとも言える。

「ごめんね」

 もう一度、あたしは小さく呟いた。